曇り。
とらちゃんは出迎えてくれたが、ぼくに近づくにつれ、
鼻に何かついているのに気づいた。
それは鼻水だった。
これまで、風邪らしき症状をほとんど見せなかったとらちゃんが
鼻水を垂らしているということに、正直、狼狽した。
幸いというべきか、わずかな量であったが食事はできた。
少なくとも鼻は利いている。
抗生物質を飲ませる。
だが、その後の行動を見ていると、寒そうな場所ばかりにいる。
手足や尻尾が濡れている。
そんなとらちゃんを捕まえ、フリースで包み、強制的に温める。
暖かいと感じているのか、じっと身をまかせている。
もっとも、抵抗する体力もないのかもしれない。
あまりに長い時間だったため、さすがに中腰でとらちゃんを
抱いているぼくの方に限界が来て、
幸い、車の後ろにいたため、そのまま、車に乗り込む。
とらちゃんが拒絶する可能性も頭にはあったが、
とらちゃんはされるがままだった。
ぼくが車に乗り込んでしばらくすると雨が強く降り始めた。
時折、とらちゃん鼻から鼻水が出るのを拭き取りながら、
車の中で過ごす。
とらちゃんが自ら顔を起こした。
この時、くしゃみのようなものと一緒に出た鼻水を最後に
その後は出なくなった。
このままずっと車内で待機する訳にもいかず、
朝のうちに以前、使っていたハウスの場所を移しておいた。
とらちゃんが入ってくれるかどうかはわからなかったが、
防水性の高い、使ってくれそうなものはこれしか残っていなかった。
とらちゃんを抱いたまま連れていくとスムーズに入ってくれた。
中には先程までとらちゃんを温めるために使ったカイロも入れた。
薬が効いてくれること。
保温を保ちながら休んで体力が回復してくれることを祈るような気持ちで、
ぼくはいったん撤退した。
夕方、とらちゃんが回復し、いつものように迎えてくれることを期待したが、
現実はそんなに甘くなく、餌場へ着くととらちゃんはハウスのなかだった。
触っても反応がなかったため、一瞬、もうダメか…とすら思った。
ここへ来る前に、夕方に抗生物質を飲ませるべきか、
食欲増進効果のある胃炎のクするを飲ませるべきか散々、迷っていた。
結局、決断材料として、鼻水が収まっているかどうかで判断することにした。
とらちゃんの鼻水はとまっており、朝以降、出た様子がない。
そこで、胃炎の薬を飲ませるとともに、シリンジで
餌を強制給餌することにした。
口に出来たのはわずかな量だが、食べていない期間のことを考えれば、
なにか少しでも腹に入れるべきだと判断した。
ぐったりした様子のとらちゃんが自ら起き上がったので、
何かと期待したが、体位を変えただけだった。
とらちゃんの様子から、このまま逝ってしまっても不思議はないと考えていた。
そんなとらちゃんが自ら外へ出てきた。
もしやと、急いで餌を用意したが口をつけることはなかった。
となると、猫は死ぬ時に冷たい場所に行きたがる。という知識が
脳裏をかすめた。
水を飲んでいる様子が感じられなかったので、
シリンジで水を飲ませるが、嫌がってほとんど飲めなかった。
その後もハウスには入らず、あえて地面に腹をつけているのも気になった。
さすがに見かねて近づくと、自らハウスに入っていった。
それを確認した時点でタイムアップだった。
間違いなく今夜や峠だろう。
場合によっては明日以降、二度と会えないかもしれない。
なんとか、回復して欲しいとは思うが…